第7回「治療中に体の変化を感じたとき、誰にどう伝えるか」座談会レポート
2026/8/17

出演者は、左から司会・進行:川上祥子(がん情報サイト「オンコロ」)、医師:池田慧先生(関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授)、患者:野村由利夫さん(肺がん患者会ワンステップしゃちほこ・膀胱がん患者会PABC 代表)、薬剤師:川上和宜さん(東京女子医科大学病院 薬剤部 副部長)、看護師:橋本久美子さん(聖路加国際病院 相談支援センター 専任看護師)
【はじめに】
がん治療を続けていると、「いつもより少しだるい」「痛みがある」「食欲がない」など、体の変化を感じることがあります。しかし、「年齢のせいかもしれない」「これくらいなら我慢できる」と考え、そのまま様子を見てしまう方も少なくありません。
また、ご高齢の方では、がん治療以外にも持病の薬を飲んでいることが多く、症状が薬の副作用なのか、病気によるものなのか判断に迷うこともあります。
今回の座談会では、体調の変化をどのように医療者へ伝えたらよいのか、そして多くの薬を服用している場合に気を付けたいことについて、それぞれの立場から語り合いました。
【「これくらい大丈夫かな」は、大丈夫ではありません】
患者会代表であり、ご自身も肺がんと膀胱がんの治療を経験している野村由利夫さんは、免疫チェックポイント阻害薬を受けていた際の体験を紹介しました。
治療を重ねるにつれて、痛みや頻尿、夜眠れないほどのつらい症状が続いていましたが、「この治療しかない」という思いから我慢を続けていたといいます。しかし、症状が限界に達したため、主治医に相談したところ、「これ以上続けると取り返しのつかない状態になる可能性がある」と説明を受け、治療を中止することになりました。当時は大きな決断でしたが、今振り返ると、あの時に正直に症状を伝えて本当に良かったと話しました。
池田慧先生は、日本人は我慢強く、「次の外来まで様子を見よう」と考える患者さんが少なくないと話します。しかし、小さな体調変化が重い副作用の始まりであることもあり、特に免疫チェックポイント阻害薬では、だるさなどの軽い症状から重い副作用へ進行する場合もあります。そのため、「これまでと違う」「何か変だ」と感じたら、我慢せず早めに医療者へ相談することが、自分自身を守ることにつながると説明しました。
また橋本久美子さんは、相談支援センターでも「一度相談したら『様子を見ましょう』と言われたので、その後は伝えてよいのか迷ってしまった」という相談を受けることがあると紹介しました。一度伝えた症状であっても、変化があったり、不安が続いたりする場合には、遠慮せず繰り返し伝えることが大切だと話しました。
【「どう伝えるか」が変わると、診察が変わる】
診察室では緊張してしまい、「聞きたいことが聞けなかった」「症状を十分に伝えられなかった」と感じる患者さんも少なくありません。
野村さんは、患者会でもそのような声をよく耳にすると話します。その中で役立っている工夫として紹介されたのが「メモ」です。診察前に気になる症状や聞きたいことを書き出しておくことで、自分の考えを整理でき、落ち着いて診察を受けられるようになるといいます。また、必要に応じて診察前に相談支援センターへ相談し、伝えたい内容を整理してから受診する方もいるそうです。
池田先生は、医師として特に知りたいのは、「いつから症状が始まったのか」「前回の診察と比べて何が変わったのか」という情報だと説明しました。毎日の出来事を詳しく記録することも役立ちますが、診察では特に伝えたいことを整理し、症状の変化を簡潔に伝えてもらえると診療が進めやすいと話します。また、医師へ直接話しにくい場合には、看護師や薬剤師へ伝えても、医療者同士で情報共有が行われるため、まずは誰かに相談してほしいと呼びかけました。
橋本さんも、相談支援センターでは、詳細な記録を持参される患者さんに対して、「今回一番伝えたいことは何か」を一緒に整理することが多いと紹介しました。限られた診察時間だからこそ、優先順位をつけて伝えることで、患者さんが本当に相談したいことが医療者へ伝わりやすくなると話しました。
さらに薬剤師の川上和宜さんは、熱や血圧などは「高かった」という表現だけでなく、いつ、どのくらいだったのかという具体的な数字があると、薬の調整や次の治療につながりやすいと説明しました。客観的な情報を記録しておくことも、より適切な診療につながる大切なポイントです。
【ポリファーマシー:薬が多いと、どんなことが起きるの?】
高齢のがん患者さんでは、がん治療の薬だけでなく、高血圧や糖尿病、骨粗しょう症など、複数の持病の薬を服用している方も少なくありません。こうした「多くの薬を服用している状態」は「ポリファーマシー」と呼ばれています。
野村さんは、ご自身も複数の飲み薬と点眼薬を使用しており、飲み忘れを防ぐために小分けケースを活用していることを紹介しました。また、体調に変化があったとき、「薬の副作用なのか、がんの影響なのか、それとも別の病気なのか分からず、誰に相談すればよいのか迷う」という悩みは、ご自身だけでなく患者会でも多く聞かれると話しました。
薬剤師の川上さんは、薬の種類が多くなるほど副作用のリスクが高まることが知られていると説明します。さらに、ご自身の判断で健康食品やサプリメントを追加すると、薬同士の影響が複雑になったり、本来必要な薬を飲み忘れてしまったりすることもあります。そのため、処方薬だけでなく、健康食品やサプリメントも含めて、医療者へ伝えることが大切だと話しました。
池田先生も、健康食品やサプリメントを一律に否定するものではないとした上で、科学的な根拠が十分ではないものや、薬との組み合わせによって思わぬ副作用が起こる可能性もあるため、自己判断だけで続けるのではなく、医師や薬剤師、看護師へ相談してほしいと呼びかけました。
橋本さんは、「薬が多すぎて飲むだけで負担になっている」「周囲から勧められるサプリメントまで加わり、何を優先すればよいか分からない」と悩む患者さんの相談も多いと紹介しました。そのような場合には、どこの医療機関でどのような薬を処方されているのか、サプリメントを含めて主治医へ共有することが、安全な治療につながると話しました。
また川上さんは、お薬手帳だけでは分からないこともあると説明します。例えば、「処方されているけれど飲んでいない薬」「体調に合わせて自分で飲み方を変えている薬」があれば、そのことも遠慮なく薬剤師へ伝えてほしいと話しました。薬の飲み方や服用時間は調整できる場合もあり、生活に合わせた方法を一緒に考えることができると紹介しました。
【おわりに】
今回の座談会では、「これくらい大丈夫」と我慢しないこと、そして体調の変化や薬に関する不安を、一人で抱え込まず医療者へ伝えることの大切さが繰り返し語られました。
医師だけでなく、看護師や薬剤師、相談支援センターなど、患者さんを支える医療者は数多くいます。症状が気になったときや、薬のことで迷ったときは、「誰に相談すればよいか分からない」と抱え込まず、まずは身近な医療者へ声をかけてみることが大切です。そこから必要な専門職へつないでもらうこともできます。
がん治療は、医療者と患者さんが情報を共有しながら進めていくものです。日頃から気になることを記録し、自分の言葉で伝えることが、より安心して治療を続けることにつながります。
本記事では紹介しきれなかった具体的な体験談やアドバイスも数多く語られています。ぜひ動画本編もご覧いただき、体調の変化への向き合い方や、医療者とのコミュニケーションについて考えるきっかけにしていただければ幸いです。
<出演者>
野村 由利夫さん(患者:肺がん患者会ワンステップしゃちほこ・膀胱がん患者会PABC 代表)
肺がん患者会「ワンステップしゃちほこ」代表として活動する傍ら、近年は膀胱がん患者会も設立し、患者・家族と医療者をつなぐ橋渡しに尽力しています。
橋本 久美子さん(看護師:聖路加国際病院 相談支援センター 専任看護師)
がん相談支援を専門とする看護師として患者・家族を支えるとともに、AYAがんの医療と支援のあり方研究会の理事を務め、AYA世代のがん医療と支援の発展に貢献しています。
川上 和宜さん(薬剤師:東京女子医科大学病院 薬剤部 副部長)
がん専門薬剤師として、薬剤師外来や副作用マネジメントを通じ、医療チームと連携しながら患者に寄り添う薬物療法支援に推進しています。
池田 慧先生(医師:関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授)
肺がん診療とがんサバイバーシップに熱心に取り組み、近年はがんと就労などのテーマも掲げ、患者中心の医療を実践する呼吸器腫瘍内科医です。
川上 祥子(司会・進行:がん情報サイト「オンコロ」)
※この座談会の様子を動画でご覧になる方はオンコロYouTube公式アカウントでご覧下さい。
動画はこちら:第7回テーマ「治療中に体の変化を感じたとき、誰にどう伝えるか」