第8回「家でできる、毎日を楽にする工夫」座談会レポート

出演者は、左から司会・進行:川上祥子(がん情報サイト「オンコロ」)、医師:池田慧先生(関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授)、患者:野村由利夫さん(肺がん患者会ワンステップしゃちほこ・膀胱がん患者会PABC 代表)、薬剤師:川上和宜さん(東京女子医科大学病院 薬剤部 副部長)、看護師:橋本久美子さん(聖路加国際病院 相談支援センター 専任看護師)

【はじめに】

がん治療を続けていると、治療そのものだけでなく、毎日の生活の中でさまざまな困りごとに直面することがあります。皮膚の乾燥や爪の変化、食欲の低下、夜間頻尿、むくみなど、一つひとつは命に関わる症状ではないと思い、我慢してしまう方も少なくありません。

しかし、こうした日常生活の困りごとは、生活の質を大きく左右するだけでなく、治療を続けることにも影響する場合があります。

今回の座談会では、自宅で過ごす時間を少しでも楽にするために、日常生活の困りごとへの向き合い方や、早めに相談することの大切さについて、それぞれの立場から語り合いました。

【「治療も日常生活も大変」は本当のこと】

患者会代表であり、ご自身も長年がん治療を続けている野村由利夫さんは、患者会では病院での治療よりも、自宅での日常生活について話題になることが多いと紹介しました。抗がん剤の副作用によって、爪が化膿したり、手足がしびれたりして、料理や家事が思うようにできなくなることがあります。また、口内炎がひどく、水を飲むことさえつらいという悩みも少なくありません。患者同士が集まると、「この保湿剤が使いやすかった」「この手袋が役に立った」といった工夫を紹介し合うことも多く、日常生活を少しでも楽にするための情報交換が自然と行われているそうです。

池田慧先生は、こうした生活上の困りごとを聞くことも医師の大切な役割だと話します。症状は、がんそのものが原因の場合もあれば、治療による副作用で起きている場合もあります。特に副作用であれば、早い段階で対処することで症状が悪化するのを防ぎ、治療を続けやすくなることが期待できます。「我慢する」のではなく、「上手につき合う」という考え方で、気になることは早めに相談してほしいと呼びかけました。

橋本久美子さんも、相談支援センターには「治療は頑張りたいけれど、毎日の生活がつらい」という相談が多く寄せられると話します。例えば、息切れが年齢のせいなのか、副作用なのか分からず不安を抱えていた患者さんが、主治医へ相談したことでリハビリや栄養指導につながり、以前より楽に階段を上れるようになったケースもありました。小さな変化に気づき、相談することが、その後の生活を大きく変えるきっかけになることもあると紹介されました。

また野村さんからは、「次の診察までの間に高熱や動悸などの症状が出たものの、受診する頃には治っていた場合でも伝えた方がよいのでしょうか」という質問が投げかけられました。

池田先生は、そのような一時的な症状であっても、病気や副作用の大切なサインである可能性があるため、どのような症状が、いつ、どれくらい続いたのかを診察時に伝えてほしいと説明しました。

薬剤師の川上和宜さんも、吐き気や食欲不振などは受診日には落ち着いていることも多いものの、その間の経過を知ることで次回以降の副作用対策につながると話し、「つらかった時期」も含めて伝えることが大切だと呼びかけました。

【皮膚ケア・夜間頻尿・むくみ:困ったときの対処法】

日常生活の困りごとの中でも、皮膚のトラブルは多くの患者さんが経験する症状の一つです。

橋本さんは、湿疹や乾燥、放射線治療による皮膚の変化、爪の変色、むくみなど、見た目の変化を伴う症状についての相談が多いと紹介しました。こうした症状は命に直接関わるものではなくても、人と会うことへの不安や外出へのためらいにつながることがあり、身体だけでなく心にも大きな負担を与えると話します。

池田先生は、「これくらいなら相談しなくてもよい」「相談すると治療を中止されてしまうのではないか」と考えてしまう患者さんも少なくないとしながらも、実際には症状が重くなってからでは対応が難しくなることがあると説明しました。現在は、副作用を予防したり和らげたりする治療法も増えており、必要に応じて薬の量を調整したり、一時的に休薬したりしながら治療を続けられるケースもあります。そのため、症状を我慢して悪化させるよりも、早めに相談して適切な対策を取ることが、結果として治療を長く続けることにつながると話しました。

むくみについて池田先生は、がんそのものや治療薬の影響だけでなく、活動量の低下や長時間同じ姿勢で過ごすことなど、さまざまな要因が重なって起こることがあると説明しました。そのため、弾性ストッキングの着用やマッサージ、必要に応じた薬物療法など、一人ひとりの状態に合わせた対処法があります。一方で、症状が強くなってからでは改善までに時間がかかることもあるため、「次の外来まで我慢しよう」と考えず、早めに相談することが大切だと話しました。

野村さんも、患者会では「年齢のせいだと思っていた症状」が、実は治療による影響だったという話をよく耳にすると紹介しました。足のむくみや息苦しさを「年齢のせい」と考えていた患者さんが、周囲から受診を勧められ、早期に治療を受けたことで改善したケースや、味覚の変化を相談したことで亜鉛不足が分かり、治療によって食事を楽しめるようになったケースもあったそうです。「年齢のせい」と決めつけず、まずは医療者へ相談してみることの大切さが共有されました。

また、自宅へ戻ってから現れる吐き気や食欲低下、だるさについても話題となりました。

川上さんは、現在では吐き気を抑える薬も数多くあり、多くの場合は症状を軽減できる可能性があると説明します。副作用を我慢して治療を途中で中止してしまうよりも、早い段階で症状を伝え、必要に応じて薬を調整しながら治療を継続することが大切だと話しました。

池田先生も、食欲が落ちて十分に栄養が取れなくなると、体力や栄養状態が低下し、副作用がさらに強く出やすくなる悪循環に陥ることがあると説明しました。そのため、薬だけでなく、栄養士など多職種による支援も活用しながら、早めに相談してほしいと呼びかけました。

さらに、高齢の患者さんに多い悩みとして夜間頻尿についても意見が交わされました。

野村さんは、膀胱がん治療後、一時間おきにトイレへ起きていた時期があり、十分に眠れない日が続いた経験を紹介しました。

川上さんは、薬の影響や加齢など、夜間頻尿にはさまざまな原因が考えられるため、「いつ」「どのような時に」症状が強くなるのかを記録し、医療者へ伝えることが診断や治療につながると説明しました。

橋本さんは、夜間頻尿は患者さん本人だけでなく、一緒に生活する家族にも大きな負担となることがあると話します。「先生に言ったら治療が止まるかもしれない」と心配して相談をためらう方もいますが、転倒予防のための住環境の工夫や治療の見直しなど、できる対策は少なくありません。生活への影響を感じたときには、遠慮なく相談してほしいと話しました。

【「自分らしく」生活を続けるために】

座談会の最後には、それぞれの立場から視聴者へのメッセージが送られました。

池田先生は、日本人は「我慢すること」を美徳と考えがちですが、副作用のマネジメントや治療を続けるという観点では、必ずしも良い結果につながらないことがあると話しました。医療者へ相談することは決して迷惑ではなく、自分自身のためになる行動であると伝えています。

野村さんは、がん治療は一人で乗り越えるものではないと語りました。相談支援センターや患者会には、同じ経験を持つ仲間や専門職がおり、困ったときに気軽に相談できる場所があります。一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら治療を続けてほしいと呼びかけました。

川上さんは、現在は副作用への対策も進歩しており、「安心して安全に治療を続ける」ための選択肢が増えていると説明しました。そのためにも、自宅での体調や生活の様子を記録し、不安に思ったことを率直に伝えることが重要だと話しました。

橋本さんは、インターネットやAIなどから多くの情報を得られる時代だからこそ、「自分にとって本当に必要な情報」を整理することが大切だと話します。相談支援センターでは、患者さん自身が納得して治療や生活を選択できるよう支援しているため、迷ったときにはぜひ活用してほしいと紹介しました。

【おわりに】

今回の座談会では、皮膚の症状やむくみ、吐き気、食欲低下、夜間頻尿など、日常生活で起こるさまざまな困りごとについて話し合われました。

こうした症状は「命に関わらないから」と我慢されがちですが、生活の質を低下させるだけでなく、治療を続けることにも影響する場合があります。現在は、副作用を和らげる薬や生活上の工夫、多職種によるサポートなど、多くの対処法が用意されています。

大切なのは、一人で抱え込まず、「これくらいなら大丈夫」と思わずに相談することです。医師だけでなく、看護師、薬剤師、相談支援センター、そして患者会など、患者さんを支える多くの人たちがいます。困ったときには、その力を借りながら、自分らしい生活と治療を続けていくことが何より大切です。

本記事では紹介しきれなかった具体的な体験談やアドバイスも、動画本編では詳しく語られています。ぜひ動画もご覧いただき、ご自身やご家族が安心して治療を続けるためのヒントとしてお役立てください。

<出演者>

野村 由利夫さん(患者:肺がん患者会ワンステップしゃちほこ・膀胱がん患者会PABC 代表)
肺がん患者会「ワンステップしゃちほこ」代表として活動する傍ら、近年は膀胱がん患者会も設立し、患者・家族と医療者をつなぐ橋渡しに尽力しています。

橋本 久美子さん(看護師:聖路加国際病院 相談支援センター 専任看護師)
がん相談支援を専門とする看護師として患者・家族を支えるとともに、AYAがんの医療と支援のあり方研究会の理事を務め、AYA世代のがん医療と支援の発展に貢献しています。

川上 和宜さん(薬剤師:東京女子医科大学病院 薬剤部 副部長)
がん専門薬剤師として、薬剤師外来や副作用マネジメントを通じ、医療チームと連携しながら患者に寄り添う薬物療法支援に推進しています。

池田 慧先生(医師:関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授)
肺がん診療とがんサバイバーシップに熱心に取り組み、近年はがんと就労などのテーマも掲げ、患者中心の医療を実践する呼吸器腫瘍内科医です。

川上 祥子(司会・進行:がん情報サイト「オンコロ」)

※この座談会の様子を動画でご覧になる方はオンコロYouTube公式アカウントでご覧下さい。

動画はこちら:第8回テーマ「家でできる、毎日を楽にする工夫」